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那覇地方裁判所 昭和63年(行ウ)5号 判決 1992年10月27日

那覇市首里鳥堀町三丁目六七番七号

原告

赤嶺須賀子

右訴訟代理人弁護士

伊志嶺善三

深沢栄一郎

阿波根昌秀

仲山忠克

沖縄県浦添市字宮城六九七番地の七

被告

北那覇税務署長 木村盛也

右指定代理人

松本清隆

齊藤博志

白濱孝英

久場兼政

安里良治

山崎司

宮城朝章

神里安則

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟被費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告の昭和五八年分、昭和五九年分及び昭和六〇年分の所得税について、被告が昭和六一年六月二日にした各更正及び過少申告加算税の各賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が、所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を不服として、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  確定申告

原告は、那覇市首里鳥堀町三丁目六七番七号(首里園)及び同市寄宮一五〇番地の一(寄宮園)の二か所において「ひまわり」の名称で保育園(以下「本件保育園 という。)を営んできた者であるが、昭和五八年分、昭和五九年分及び昭和六〇年分(以下「係争各年分」という。)の所得税につき、別表1課税の経緯一覧表の確定申告欄各記載のとおり確定申告をした。なお、原告の係争各年分及び昭和五七年分の所得税の各確定申告書の収入金額欄及び必要経費欄には何らの記載もなく、また、収支明細書の提出もなかった。

2  本件各処分の経緯

(一) 被告の部下職員奥平勲(以下「奥平」という。)は、原告の昭和五七年分、昭和五八年分及び昭和五九年分の所得税調査のため、昭和六〇年八月一三日、原告の居宅に赴いたが、北那覇民主商工会(以下「民商」という。)事務局員が居合わせ、原告から後日来るよう要請され、退去した。その後、奥平は、原告から指定された同年一二月一〇日、再び原告の居宅に赴いたが、民商事務局員及び同会員数名が同席したことから、奥平が退席を求めたのに対し、原告はこれに応じず、結局、奥平は、調査を打ち切った。

(二) 被告は、原告が昭和六〇年分の所得税の確定申告をした後である昭和六一年六月二日、原告の係争各年分の所得税に関して、推計の方法により原告の事業所得金額を算定し、別表1課税の経緯一覧表の更正等欄各記載のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各処分」という。)を行った。

3  不服申立て

原告は、本件各処分を不服として、昭和六一年七月一八日、異議申立てを行ったが、決定のないまま三か月が経過したため、同年一一月二〇日、審査請求をした。これに対し、昭和六三年五月一三日、審査請求をいずれも棄却する旨の裁決がなされ、右裁決は、同月二〇日、原告に送達された。原告は、更に、本件各処分の取消しを求めて、同年八月一七日、本件訴訟を提起した。

二  争点

1  税務調査手続に関する違法

(一) 原告は、本件各処分に係る被告の税務調査には、以下のとおりの違法であり、また、本件各処分時において推計の必要性も認められないことを理由に、本件各処分は取り消されるべきであると主張している。

(1) 本件においては、調査の必要性が認められない。

(2) 奥平は、原告に対する質問検査の際、原告が調査に必要な帳簿書類等を用意していたにもかかわらず、民商の事務局員らの立会いを理由に、調査を実施しなかった。しかし、質問検査権の行使としての税務調査は任意調査であり、被調査者は当然第三者の立会いを要求することができるのであって、第三者の立会いを認めるか否かを税務職員の裁量に委ねたものではない。また、被告は、第三者の立会いを拒否した理由を守秘義務に求めるが、これは、同じく立会いの拒否は職員の裁量であるとの主張と矛盾するものであるばかりでなく、本件においては、質問検査において守秘義務の対象となるような秘密は存在していなかった。

(3) 昭和六〇年分の所得税に関しては、原告の確定申告後、原告に対し何ら質問検査をすることなく推計課税を行っている。

(二) これに対し、被告は、以下のとおり主張して、原告の主張を争っている。

(1) 原告の昭和五七年分、昭和五八年分及び昭和五九年分の所得税の各確定申告書の収入金額及び必要経費の各欄には何らの記載がなく、また、右申告は、他の同業者と比べて所得金額が低調であったため、被告は奥平をして原告の所得税調査に当たらせたのであり、調査の必要性は十分存在した。

(2) 質問検査における第三者の立会いについては、実定法上特段の定めがないから、全て権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられていると解されるところ、税務調査に全く関係のない第三者の立会いを認めると、当該調査の内容が取引の相手方等の第三者の秘密にわたることもあり、ひいては税務職員の守秘義務に反することにもなりかねないことが十分予想され、右第三者の秘密保持に種々の懸念を生じ、無用に調査を硬直化させ、適切かつ十分な税務調査を実施することの妨げになると考えられるのであって、奥平が原告に対する質問調査の際、民商事務局員らの立会いを拒否したことに何ら違法な点はない。

(3) しかるに、原告は、質問検査に第三者の立会いを求めこれに固執するなどして調査に非協力的態度をとったため、被告において、実額計算の方法により原告の所得金額を把握することが不可能となったものであり、推計の必要性も存した。

2  原告の収入金額

(一) 被告の主張

被告は、原告の収入は本件保育園の保育料、入園料及び父母会費からなり、その収入金額は以下の推計方法により算定されるべきであると主張している。

(1) 保育料

<1> 園児数

昭和六一年五月二七日、税務職員が那覇市福祉部児童課に臨場し、同課の資料に掲載されている園児の賠償責任保険の加入状況から把握したところによれば、本件保育園の係争各年分の園児数は、別表2園児数一覧表(被告)のとおりである。

<2> 年令別園児数

右<1>と同様、健康診断受診報告書から把握した本件保育園の昭和六〇年分の年齢別園児数は、別表3昭和60年分年齢別園児数一覧表(被告)のとおりである。右<1>の人員との差一六人(首里園八人、寄宮園八人)については、健康診断を受診しなかった人員とした。

<3> 月額保育料

昭和六〇年一二月一六日に原告の従業員を、同月二三日及び二四日に園児の父母等二人を調査したところによれば、本件保育園の園児一人当たりの年齢別月額保育料は、別表4月額保育料一覧表(被告)のとおりである。なお、健康診断未受診者の月額保育料は、年齢別区分の判明している園児の月額保育料の平均額とした。

<4> 昭和六〇年分の保育料

以上により昭和六〇年分の保育料収入を算定すると、別表5昭和60年分保育料収入一覧表(被告)のとおり、合計二二八八万六四〇〇円となる。

<5> 昭和五八年分及び昭和五九年分の保育料

昭和五八年分及び昭和五九年分については年齢別園児数が不明のため、昭和六〇年分の一人当たりの月額保育料の平均額(首里園二万一八〇〇円、寄宮園二万〇一〇〇円)に右<1>の園児数を乗じて算定した結果、別表6昭和58年分及び昭和59年分保育料収入一覧表(被告)のとおり、保育料収入は、昭和五八年分が一七四九万六〇〇〇円、昭和五九年分が一八三四万二〇〇〇円となる。

(2) 入園料

入園料収入は、昭和六〇年一二月二三日に園児の父母一人を調査して把握した園児一人当たりの入園料五〇〇〇円に、右(1)の<1>の係争各年分の園児の合計数二三四人の三年間の平均七八人を年齢区分段階六で除した一三人を乗じて、係争各年分とも六万五〇〇〇円と算定した。

(3) 父母会費

<1> 当事者間に争いのない園児一人当たりの月額父母会費一五〇円に、右(1)の<1>の係争各年分の園児数を乗じて算定すると、別表7父母会費収入一覧表(被告)のとおり、父母会費収入は、昭和五八年分が一二万六〇〇〇円、昭和五九年分が一三万一四〇〇円、昭和六〇年分が一六万三八〇〇円となる。

<2> なお、原告は、父母会費は父母会の収入であると主張するが、その証拠資料は存在しない。

(4) 収入金額

以上によれば、原告の収入金額は、別表8収入金額一覧表(被告)のとおり、昭和五八年分が一七六八万七〇〇〇円、昭和五九年分が一八五三万八四〇〇円、昭和六〇年分が二三一一万五二〇〇円となる。

(二) 原告の主張

原告は、以下のとおり、実額計算の方法により収入金額を算定すべきであると主張し、被告の算定額を争っている。

(1) 園児数

係争各年分の園児数は、別表9園児数一覧表(原告)のとおりである。

(2) 保育料

<1> 本件保育園の係争各年分の年齢別月額保育料は、首里園及び寄宮園とも同額で、別表10月額保育料一覧表(原告)のとおりである。

<2> 一家族から二人以上の園児が在園するときは、一人当たり一〇〇〇円宛割り引いており、園児が本件保育園の従業員の子の場合には、半額としていた。また、月途中で入園した場合には日割計算で保育料を徴収していた。

<3> 右に従い原告が実際に得た係争各年分の保育料収入は、昭和五八年分が一三五四万五五〇〇円、昭和五九年分が一五五二万四〇〇〇円、昭和六〇年分が一七七八万二七〇〇円である。

(3) 入園料

<1> 入園料は、係争各年分とも一人当たり三〇〇〇円である。

<2> 一家族から二人以上の園児が入園した場合には、一人当たり一〇〇〇円宛割り引いている。

<3> 右に従い原告が実際に得た係争各年分の入園料収入は、別表11入園料収入一覧表(原告)のとおりである。

(4) 父母会費

父母会費は、主に運動会、クリスマス会、卒園おゆうぎ会の菓子や果物代、ちり紙代など父母会の運用のために使用されるもので、昭和五〇年四月の父母会の申合せにより、名義の永続性を持たせるため、首里園は沖縄銀行鳥堀支店の、寄宮園は琉球銀行寄宮支店のそれぞれ原告の夫赤嶺正栄名義の預金口座に預金され、使用の都度引き出すという方法により管理されているものであって、原告の事業収入ではない。

(5) 収入金額

以上のとおりであって、原告の係争各年分の収入金額は、別表12収入金額一覧表(原告)のとおり、昭和五八年分が一三六二万九五〇〇円、昭和五九年分が一五五三万四〇〇〇円(差額一〇万円については主張がない。)、昭和六〇年分が一七九二万七七〇〇円である。

(三) なお、係争各年分の必要経費のうち、一般経費の収入金額に対する割合(一般経費率)は、昭和五八年分が三六・〇二パーセント、昭和五九年分が三四・三九パーセント、昭和六〇年分が三一・八五パーセントであること、特別経費の中の人件費の収入金額に対する割合(人件費率)は、昭和五八年分が四〇・〇一パーセント、昭和五九年分が四一・〇九パーセント、昭和六〇年分が四二・五六パーセントであること、同じく建物減価償却費は係争各年分とも三四万六七七五円であること、また、事業専従者控除額は、昭和五八年分が四〇万円、昭和五九年分及び昭和六〇年分が各四五万円であること並びに以上の外に必要経費が存在しないことについては当事者間に争いがなく、被告主張の収入金額によった場合の原告の係争各年分の事業所得金額は、別紙13事業所得金額一覧表(被告)のとおり、昭和五八年分が三四九万二八〇〇円、昭和五九年分が三七四万八八四二円、昭和六〇年分が五一一万八四〇五円となり、いずれの年分も、本件各処分における事業所得金額を上回ることになる。

第三争点に対する判断

一  税務調査手続に関する違法の主張について

1  本件、課税処分は課税標準の存在を根拠としてされるものであり、その適否は、原則として客観的な課税標準あるいはそれを構成する要件事実の存否によって決せられるべきものである。仮に、税務調査手続に関し何らかの違法な点があったとしても、それが調査を全く欠くなどといった重大なものでない限り、当該処分の取消事由とはならないものと解される。本件においては、原告の主張する事実関係を前提としても、税務調査手続に本件各処分を取り消すべき重大な違法があったということはできない。

2  のみならず、本件において、税務調査手続に格別違法な点があったとも認められない。すなわち、

(一) 原告の昭和五七年分、昭和五八年分及び昭和五九年分の所得税の各確定申告書の収入金額及び必要経費の各欄には何らの記載がなく、また、収支明細書の提出もなかったことについては当事者間に争いがなく、右事実を前提とすれば、本件において、原告の申告の適否を審査すべき合理的必要性があったものと認めることができる。

(二) 次に、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法に特段の定めのない実施の細目については、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているものと解される。そして、証人奥平勲、同赤嶺正栄及び原告本人の各供述によれば、奥平は、原告に対する質問検査の際、税務調査に全く関係のない第三者の立会いを認めると、取引の相手方等の第三者の秘密保持に懸念を生じ、無用に調査を硬直化させ、適切かつ十分な税務調査を実施することの妨げになると判断し、民商事務局員らの立会いを拒否したことが認められるところであり、その措置に裁量権を逸脱、濫用するなどの違法な点があったとは認められない。

右判断に反する原告の主張は、独自の見解であって、採用できない。

(三) なお、証人奥平勲、同赤嶺正栄及び原告本人の各供述によれば、奥平が昭和六〇年一二月一〇日原告の居宅に赴いた際、原告が民商事務局員らの立会いを要求しこれに固執したため、奥平は原告に対する質問検査を実施することができなかったことが認められるところ、前述したとおり、その後に提出された昭和六〇年分の確定申告書においても従前同様収入金額及び必要経費の各欄の記載がなく、収支明細書の提出もなかったことにかんがみれば、被告において、昭和六〇年分の所得税に関し原告に質問検査を実施しても必要十分な資料は得られないであろうと判断するのも首肯できることであって、右確定申告後に原告に対し質問検査しなかったことを違法ということはできない。

(四) そして、右によれば、被告において原告の係争各年分の事業所得金額を推計の方法により算定したのもやむを得ないことであって、本件各処分時に推計の必要性も存在したと認めることができる。

二  原告の収入金額について

1  実額の主張について

(一) 原告は、係争各年分の収入金額について実額計算の方法により算定すべきであると主張しているので、以下これを検討する。

(二) 原告は、その主張を裏付ける証拠として保育料領収帳(甲第五号証の一・二)、園児募集要綱(甲第八、第九号証、第一〇号証の二、第一一、第一二号証、第一三号証の二、第一四号証の二)、保育料改訂通知書(甲第一〇、第一三、第一四号証の各一)等の書証を提出しているところ、それらの信用性に関し、以下の事実が認められる。

(1) 保育料領収帳(甲第五号証の一・二)の裏付けとなり、係争各年分の園児数や園児の年齢等が明らかとなる園児名簿や出席簿等の資料は一切提出されていない。

(2) 保育料領収帳(甲第五号証の一・二)は、もともと父母会費等を含め鉛筆で記帳されていたものが、係争各年分については、保育料と入園料のみについてインクで書き換えられ、父母会費等は消された形跡があり、右のように書き換えられた時期、理由については明らかではない(原告本人)。

(3) 係争各年分の園児一人当たりの年齢別月額保育料及び入園料の裏付けとなるべき園児募集要綱(甲第九号証、第一〇号証の二、第一一号証)の手書き部分を除いた記載は、全て活字で記載されている昭和六二年四月分の園児募集要綱(甲第一三号証の二)と同様のものであって、右園児募集要綱を基に後日作成された可能性を否定できず、また、原告が提出した昭和五四年九月分の園児募集要綱(甲第八号証)は、原告が昭和五四年に税務調査を受けた際税務署に提出した(原告本人)同年分の園児募集要綱(乙第一八号証の二)と比較すると、父母会費及び絵本代等の記載を抹消したものとなっている。

(4) 同じく係争各年分の園児一人当たりの年齢別月額保育料の裏付けとなるべき保育料改訂通知書(甲第一〇、第一三、第一四号証の各一)のうち、少なくとも甲第一〇、第一四号証の各一の押印は最近なされたものである(証人赤嶺正栄、原告本人)。

(5) 昭和五八年分及び昭和五九年八月までの三歳児の一人当たりの月額保育料について、原告は、審査請求段階では一万七〇〇〇円であると主張し(乙第一一号証)、また、原告の夫で経理を担当している証人赤嶺正栄も同様に証言し、原告本人も当裁判所において当初はその旨供述しているところ、その後右供述が変遷している。

(6) 保育料領収帳(甲第五号証の一・二)の記載を検討すると、以下のような不自然な点がある(乙第一七号証参照)。

<1> 保育料領収帳への係争各年分及び各保育園別の記入は、別個の帳簿又は別個の箇所に記入されているものが散見されるなど、継続的に記帳されたものであるかどうかについて疑問を生じさせるものである。

<2> 保育料を重複して記載している園児がある一方、保育料を徴収していない期間が存在する多数の園児が認められ、これについて合理的な説明はない。

<3> 昭和五八年三月分の寄宮園並びに昭和六〇年三月分の首里園及び寄宮側の園児数は、無認可保育施設賠償責任保険の保険料の補助の関係で原告が同月那覇市に報告したと認められる(証人奥平勲、乙第一二号証)園児数(別表2園児数一覧表(被告))を、下回っている。

<4> 証人赤嶺正栄及び原告本人の各供述によれば、本件保育園では、園児の父母は保育料の金額が記載された領収袋に従って保育料を納付し、従業員が納付金額を確認後、右正栄が右領収袋の記載に基づき保育料領収帳に記入するという手続をとっており、園児一人一人の納付された保育料額及び保育料領収帳の記載金額は、原則として毎月一定となるものと考えられるところ、右保育料領収帳には月によって保育料額の増減する多数の園児が存在し、これについて合理的な説明はなく、また、原告主張の兄弟の存在による割引制度について、その適用方法が一定しないというのも不自然である。

<5> 昭和五八年分及び昭和五九年八月以前の分につき、月額保育料が一万七〇〇〇円等の金額であって原告主張の月額保育料に該当せず、かつ、保育料領収帳に兄弟が記載されていない多数の園児が存在するところ、これらの園児が原告の説明するとおり兄弟の存在による割引制度の適用による園児であるとすれば、該当する兄弟については保育料領収帳に記入せず圧縮記帳していたことになり、また、兄弟が存在しないとすれば、原告主張の月額保育料及び園児募集要綱等との整合性が失われる結果となる。

<6> 入園料を重複して記載している園児がある一方、従業員の子ではないのに(原告本人)これを徴収していない多数の園児の存在が認められる。

(三) 以上指摘した点にかんがみれば、保育料領収帳(甲第五号証の一・二)、園児募集要綱(甲第八、第九号証、第一〇号証の二、第一一、第一二号証、第一三号証の二、第一四号証の二)、保育料改訂通知書(甲第一〇、第一三、第一四号証の各一)等の書証及びこれらに関する証人赤嶺正栄及び原告本人の各供述の信用性には疑問があり、これらの証拠を基に原告の収入金額を実額計算の方法により算定することはできず、結局、当裁判所においても推計の方法により算定せざるを得ない。

2  推計による収入金額の認定について

(一) 証人奥平勲の証言及び乙第一二ないし第一五号証によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 那覇市は、無認可保育施設賠償責任保険の保険料の補助をしており、その関係で、原告は、毎年三月ころ園児数を那覇市に報告しているところ、報告された園児数は、別表2園児数一覧表(被告)のとおりである。

(2) 那覇市は、無認可保育園の児童の健康診断の受診料を補助しており、その関係で、健康診断を受診した園児数を把握しているところ、昭和六〇年七月一六日に首里園で、同月一八日に寄宮園でそれぞれ健康診断を受診した園児数は、別表3昭和60年分年齢別園児数一覧表(被告)のとおりである。

(3) 奥平が

<1> 昭和六〇年一二月一六日、寄宮園に電話をして、従業員から聞いた園児一人当たりの月額保育料は、三歳以上児が一万七〇〇〇円、三歳未満児が二万三〇〇〇円であり、

<2> 同月二三日、首里園の園児の父母から聞いた園児一人当たりの入園料は五〇〇〇円、〇歳から一歳児の月額保育料は二万四〇〇〇円、二歳から三歳児の月額保育料は二万二〇〇〇円であり、

<3> 同月二四日、寄宮園の園児の父母から聞いた園児一人当たりの月額保育料は、二歳から三歳児が一万八〇〇〇円、四歳から五歳児が一万七〇〇〇円である。

(二) 右各事実に後掲各証拠を総合すれば、次のとおり認定するのが相当である。

(1) 保育料収入

<1> 係争各年分について、月平均で別表2園児数一覧表(被告)のとおりの園児が在園し、そのうち昭和六〇年分の七五人については別表3昭和60年分年齢別園児数一覧表(被告)のとおりの年齢別区分であるものと認められる。

<2> 類似同業者の保育料(乙第一六号証)をも合わせ考えると、園児一人当たりの年齢別月額保育料は別表14月額保育料一覧表(認定)のとおりであると認められる。寄宮園の二歳及び三歳児の月額保育料については、奥平の前記聴取金額のうちそれぞれ低額の方の月額保育料を認定するのが相当であり、首里園の四歳及び五歳児の月額保育料は寄宮園と同額とするのが相当である。また、年齢別区分の不明な昭和五八年分及び昭和五九年分の全員並びに昭和六〇年分の一六人については、年齢別区分の判明している昭和六〇年分の園児の一人当たり月額保育料の平均額(一〇〇円未満切捨。首里園二万一八〇〇円、寄宮園一万九一〇〇円。)を適用するのが合理的である。

<3> 以上によれば、昭和六〇年分の保育料収入は、別表15昭和60年分保育料収入一覧表(認定)のとおり、合計二二二八万六四〇〇円となり、昭和五八年分及び昭和五九年分の保育料は、別表16昭和58年分及び昭和59年分保育料収入一覧表(認定)のとおり、昭和五八年分が一七〇〇万八〇〇〇円、昭和五九年分が一七八九万八〇〇〇円と算定できる。

(2) 入園料収入

係争各年分とも被告の主張額である六万五〇〇〇円の入園料収入が存在することについてと当事者間に争いがない。

(3) 父母会費収入

<1> まず、父母会費の帰属に関する原告の主張について検討すると、後掲各証拠によれば、次の事実を認めることができる。

ア 父母会費は、保育料とともに領収袋により同時に徴収されている(証人赤嶺正栄、原告本人)。

イ 保育料領収帳(甲第五号証の一・二)に当初鉛筆で記入されていた父母会費が後に消された形跡が認められる(原告本人)。

ウ 原告が提出した昭和五四年分の園児募集要綱(甲第八号証)は、原告が税務署に提出した同年分の園児募集要綱(乙第一八号証の二)には記載のあった父母会費の記載が削除されている。

エ 父母会の会則が存在しないばかりか、父母会の会計帳簿も現存せず、また、年度途中の退園者に対し、会費の返還はされていない(証人赤嶺正栄、原告本人)。

オ 原告が父母会費を預金して管理していると主張している沖縄銀行鳥堀支店及び琉球銀行寄宮支店の赤嶺正栄名義の預金口座(甲第七号証の一・二)には、琉球銀行について昭和六〇年八月に一度六五〇〇円の入金がある以外に、係争各年分における入出金はなく、証人赤嶺栄の証言によれば、父母会費は保育料と一緒に管理されていたことが認められる。

右各事実によれば、父母会費は父母会の収入ではなく原告の事業収入であるものと認めることができる。

<2> したがって、当事者間に争いのない園児一人当たりの月額父母会費一五〇円に右(1)の<1>の係争各年分の園児数を乗じて算定すると、係争各年分の父母会費収入は、別表7父母会費収入一覧表(被告)のとおりとなる。

(4) 収入金額

以上によれば、原告の収入金額は、別表17収入金額一覧表(認定)のとおり、昭和五八年分が一七一九万九〇〇〇円、昭和五九年分が一八〇九万四四〇〇円、昭和六〇年分が二二五一万五二〇〇円となる。

3  事業所得金額

右に認定した収入金額を基に、当事者間に争いのない必要経費等の額を控除して事業所得金額を算出すれば、別表18事業所得金額一覧表(認定)のとおり、昭和五八年分が三三七万五八二七円、昭和五九年分が三六三万九九七三円、昭和六〇年分が四九六万四八六五円となり、いずれの年分も、本件各処分における事業所得金額を上回ることになる。

三  結論

よって、原告の本訴請求は理由がないのでいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 生島弘康 裁判官 山田明)

別表1

課税の経緯一覧表

<省略>

別表2

園児数一覧表(被告)

<省略>

別表3

昭和60年分年齢別園児数一覧表(被告)

<省略>

別表4

月額保育料一覧表(被告)

<省略>

別表5

昭和60年分保育料収入一覧表(被告)

<省略>

別表6

昭和58年分及び昭和59年分保育料収入一覧表(被告)

<省略>

別表7

父母会費収入一覧表(被告)

<省略>

別表8

収入金額一覧表(被告)

<省略>

別表9 園児数一覧表(原告)

<省略>

別表10 月額保育料一覧表(原告)

<省略>

別表11 入園料収入一覧表(原告)

<省略>

別表12 収入金額一覧表(原告)

<省略>

別表13

事業所得金額一覧表(被告)

<省略>

別表14

月額保育料一覧表(認定)

<省略>

別表15

昭和60年分保育料収入一覧表(認定)

<省略>

別表16

昭和58年分及び昭和59年分保育料収入一覧表(認定)

<省略>

別表17

収入金額一覧表(認定)

<省略>

別表18

事業所得金額一覧表(認定)

<省略>

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